9×9

オリジナルBL・百合小置き場

百合「抱いてください」(4)完結

「抱いてください」(4)

同棲しはじめて数ヶ月。ミカさんのあまりにもずさんな生活に毎回びっくりしきりだ。ほんとこの人生きてアイドルやってたのが信じられない……奇跡だよ……というレベル。
危機管理能力と体のケアに関して非常にぽんこつなミカさん。そこをフォローするのもわたしである。

「ミカさん!ちゃんとチェーンかけるんですよ!」
「はいはい」
「それから適当な人間と安易に関係を結ばないこと!」
「はいはーい」
「あと野菜もちゃんと食べてくださいね!」
「ママかよ~……」

少しふてくされながらも、注意したことはきちんと守ってくれる。わたしはミカさんのそういうところが大好きだ。

雑誌やテレビなんかで見るミカさんとは、少し違った性格。やはり外面というものがあるのであろう。目付きがきりっとした、ストイックなアイドル、と見せかけて、実態はこれだ。ギャップが酷い。

ファンとして驚きつつも、アイドルのお仕事って本当に大変なんだなあと思う。ファンとしても、個人的にも、この人の面倒を見なくちゃ、という気持ちがわいてくるような相手。最近ではファンとしてでなく、ミカさんをいかに健康にするかに腐心している。ママかよ。

もちろんアイドルのミカさんも好きだ。出ている番組はチェックしてるし、見ながらきゃーきゃー言うのはやめられない。素のミカさんも好きだが、アイドルのミカさんもとても好きなのだ。

テレビの録画を見ながら、「本物はここにいるんですけど」と苦言を呈してくるミカさん。しかしそれはそれ、これはこれである。

「やっぱりアイドルとしてのミカさんも好きなんですよ。」
「ふーん?」
推し歴長いですからね。」
「いつから好きなの」
「デビュー当時からなので、えーっと、10年くらいですかね。ミカさんが15歳のときからのファンです。」
「カナさんっていくつなの」
「27歳です」
「わたし今年25なんで、まあまあ釣り合ってんね」
「そうですね、未成年に手をだすのは絶対ダメだから。」
「そうなの?二十歳になるまでも年上のセフレいたわ。社会人とか」
「はあ~?そいつらみんなクズですよ!未成年に手を出すなんて……!いくらミカさんがぽんこつだからってそこにつけこむ大人はクズ!最低!!」
「ふーん」

意外そうな顔をするミカさん。

「マネージャーさんとか、止めなかったんですか」
「黒川さんの前は適当なやつだったから。売れるまでは基本雑に扱われてたよ。」
「最悪……未成年は大人が守らねばならないのに……」

不思議そうな顔をしたミカさん。

「変わってんね」
「いやこれが普通ですよ、多分」
「カナさんがいい人過ぎるだけじゃない?」
「いやいや」

「ふーん」と適当に相づちをうつミカさん。……まじで今生きててくれることに感謝だ。奇跡だ……

「なに感慨浸ってるの。ご飯も食べたし録画も見たし、もういいでしょ。セックスしよう。」
「ほんとセックス好きですね」
「好きっていうか……今ままで仕事とセックスしかしてきてないから。習慣?」
「あそびにいったりとかしないんですか?」
「友達いないし、一人じゃつまんない」
「……じゃあ今度、どこかに遊びにいきましょうよ」
「どこに?」
「うーん……山とか」
「山かよ」
「歩くので運動にもなりますよ」
「ふーん」

相変わらず適当な返事をしているけど、興味津々そうなミカさん。なんというか、今までセックスすることでしか人間関係築けなかったタイプたんだろうか。15才からアイドル。大変だっただろう。

「じゃあ今週末、スケジュールが空いてたらいきますか?」
「いく」

ということで、登山が決まった。
……これはデートになるのかな。分からないけど、楽しみだ。



先日の山登りから、ミカさんは外に出たがるようになった。余程外での遊びが楽しかったのであろう。
「次は海にいきたい」
「また山登りたい」
「ゲーセンも行ってみたい」

色んな要求に応えて、週末、ミカさんの都合がよければ遊びにいく。本当に、ミカさんは外で遊んだことがないようであった。いつでもどこでも、初めてのような反応をする。実際初めての体験なのだろう。15歳から25才。遊びたい盛りのときに、ミカさんは仕事漬けだった。やりたかったことも、沢山あっただろう。今までを埋め合わせるように、ミカさんは全力で遊んでいる。微笑ましい一方で、少しやるせない気持ちにもなった。

今まで、偶像として崇めていた、アイドルとしてのミカさん。
でも、ミカさんだって人間だ。当たり前のようで、忘れ去られること。偶像という存在であると、勝手に決めつけてファンをやっていた。

ミカさんは人間だ。
側で見ていて、痛感した。
彼女もまた、わたしたちと同じ人間なんだ。





そうやって遊ぶようになって数ヶ月。とうとう週刊誌にすっぱ抜かれた。

「登山デートにゲーセンデート?アイドルミカに恋人か?お相手とは既に同棲中!」

表紙にでかでかと書かれたその文字。
やられた。

ネットでの反応も様々だ。「恋人できておめでとう!そろそろ良い年だもんね」「恋人とかありえない。アイドルとしての自覚がない」「山登りwww」……その他色々。
黒田さんに聞くところによると、いやがらせや殺害予告もでているらしい。


やってしまった。
わたしが軽率だった。
ミカさんを傷つけることになってしまった、わたしは最悪だ。

頭を抱える。もしわたしがミカさんと付き合いのないままのいちファンだったとしたら、ショックだったろう。
今までなかったスキャンダル。アイドルとして生きるミカさん。わたしが壊した。

ご飯係などといって付きまとい、迷惑をかけた。最悪だ。

このままではいけない。ミカさんはアイドルだ。アイドルとして、10年も頑張った。ずっと見てきたから知っている。辛いことがあっても笑って仕事をしていることも、一緒に暮らすようになってから知った。
その苦労を、わたしがいることでめちゃくちゃにしたくない。

……やめよう。ミカさんの不利になるような存在にはなりたくない。最近ではミカさんも大分ましな生活ができるようになってきた。身をひこう。


そう決意し、荷物をまとめる。
と、そこにミカさんが帰って来た。

「……何してるの」
「ミカさんにご迷惑をお掛けしてしまいました。ミカさんの寛大さにつけこんで、いちファンがこんなことを……本当にすみませんでした。これ以上のご迷惑はかけられません。出ていきます。わたしのことは、なかったことにしてください」

不思議そうな顔をするミカさん。

「テレビ見た?」

といいながらぽちっとテレビをつける。そこにはミカさんの姿が。インタビュワーに囲まれてもみくちゃになっている。

「恋人がいるとの噂ですが」

ああ、やってしまった。後悔しながら映像を見る。

「ああ、はいそうです。」

ああ、はいそうです……そうです!?

「み、ミカさん!これは一体」
「だって本当のことじゃん」
「こ、こここ恋人!?わたしが!?」
「違うの?同棲してセックスしてデートして、こういうの普通は恋人っていうでしょ」
「まあそうですけど、わたしはセフレの家政婦だって」
「前はそうだったけど。今はもう恋人」
「ひええ」

なんということだ。わたしが恋人。ミカさんの……恋人!

「違った?」
「いえ!恋人……でもほんとに、わたしなんかが恋人でいいんですか」
「愛し愛されしてたら恋人でしょ」
「愛され……わたし愛されてるんですか!?えー!?」

そりゃそうでしょ、どうでもいい相手とは同棲もしないしセックスも一夜限りだし。
平然とした態度のミカさん。

わたしが恋人……信じられない。ただのファンのはずだった。セフレの家政婦のつもりだった。それが、恋人。

「すごいことになってしまった……」
「いやだった?」

不安そうな声に、ミカさんの顔をみる。困り顔、泣きそうな顔に、びっくりした。今までこんな顔、見たことない。

「ミカさんは、これでいいんですか。こんなわたしでいいんですか」
「いいから言ってるんだよ。カナさんはどうなの?勝手にあんなこと言って、いやじゃなかった?手間のかかる人間の恋人はいや?」

「いやではないです!!!むしろ光栄というか、信じられない……」

信じてよ。その言葉に、心は決まった。

「……わたしもミカさんのこと、好きです。ファンとしてもですが、素のミカさんのことも、大好きです。交際、してください。」


「勿論。」
笑顔になったミカさん。とてもかわいらしい。これも初めて見た表情。ドキドキする。

「というわけで、セックスしよう」
「情緒もくそもない!」

相変わらずのミカさん。わたしの恋人になった、ミカさん。ずっと大切にしていた、アイドルとしてのミカさん。素のミカさん。全部大好きだ。何を迷うことがあろうか。

「セックスしましょう。恋人セックス」
「いいね。じゃあシャワー浴びにいこう」


シャワーを浴びて、ベッドイン。いつもよりも優しくて、沢山キスしてもらった。


わたしが一方的にたいせつにしてるだけじゃなく、わたしも大切にされている。
そう実感して、泣きそうになった。





ということで、ミカさんの恋人になったわたし。事務所も公認だ。黒田さんは泣いていた。……今までお疲れさまでした。


ミカさんとの関係はかわらない。ぽんこつミカさんの面倒を見るわたし。雑で大胆なミカさん。ひとつ変わったのは、ミカさんがわたしに甘えてくるようになった。すごく恋人っぽくて、幸せだ。


ただのファンだったわたし。あのときの出会いがなければ、こんなに幸せな生活を送ることはなかっただろう。奇跡かよ。ミカさんは奇跡を起こしてくれる天才だ。


「カナさんおなかすいた」
「はいはい、今から作りますね」
「あとセックスもしたい」
「いいですよ。」
台所へ向かうわたしのあとをぽてぽてとついてくるミカさん。わたしが準備してる間も、後ろから抱きついたり、もにもにお腹をもんできたり。


ああ、幸せだ。噛み締めるように思った。