9×9

オリジナルBL・百合小置き場

百合「抱いてください」(2)

抱いてください(2)



あのあと。連絡先を交換した日に、「また連絡する ミカ」という大変簡素なご連絡をいただいた。そして今日、金曜日の夜に会うことになり、集合場所である駅前にいる。こんな混みあった場所に姿を表していいの?それなりに認知度のあるアイドルが??と不安になりつつ(なんせ相手の危機管理能力はぽんこつだ)、時間を潰す。

と、メッセージがぴろりんと来た。
「ロータリーの黒い車のなかにいるから来て」

辺りを見回す。あったあった。
覗きこむと、ミカさんは後部座席に座っていて、手招きをしている。運転手は、中年の男性。マネージャーさんかな?

「失礼します」と一声かけて乗車する。

「仕事お疲れさま」
「いえ、ミカさんこそ……えっと、運転されている方は」
「マネージャー」

やっぱりそうだった。

「は、初めまして、早川カナと申します。」
「初めまして。マネージャーの黒田です。」
「えーっと、この車はどこへ向かっているのでしょうか」
「わたしの家に決まってんじゃん。やるんでしょ」
「マネージャーさんの前でなんてあからさまな!マネージャーさんこれ大丈夫なんですか!?止めた方がいいのでは!?」

下手したらスキャンダルですよ!

びびるわたしをよそに、マネージャーさんは悟ったような顔で、「スキャンダルは大丈夫なんじゃないですかね~この子今までもこうやってやってきたんで」
「奇跡かよ」

覚えのあるやりとりだ。ていうか今までもこんなことやってたのか。ファンだけど全く知らなかった。

「ファン的に今の気持ちは」
「アイドルとしても生き延びてくれてありがとうございます」
「面白いこと言うよね」

ハハハと笑うミカさん。笑えねえ……

黒田さんも笑ってない。そりゃそうだ。
「ミカの選んだ相手にしてはまともで、わたしは安心しました」

今までの苦労が察せられるような言葉に、わたしは涙ぐみそうになった。今までミカさんをフォローしてきてくださってありがとうございます。おかげでわたしたちファンは安心して応援することができています。裏で何があっても表に出してこない事務所、有能……ありがてえ……

感極まっている間に、ミカさんのマンションについた。黒田さんにお礼を言い、車から降りる。

……とうとうこのときがきた。
今日、わたしはミカさんと……するのである。ミカさんの方をちらりと見ると、やるき満々であった。精力的だなこの人……

部屋につく。
「さて、じゃあ脱いで」
「お風呂……」
「どうぞ。てかわたしも入る」
「い、一緒ですか」
「その方が早いんで」

恥じらいもなにもないミカさんに、なんかもうどうでもよくなってきた。素直にやることやって帰ろう。葛藤する必要なさそう。

というわけで、二人でささっとシャワーを浴びて、いざベッドへ。

「じゃあ始めましょうね~」
などと言いながらキスしてくるミカさん……のお腹からぎゅるるるるという音がなった。

「空腹ですか?下痢?」
「空腹」
「晩御飯は」
「食べてない。そういや昼も食べてないな」
「なんですって!体が資本のお仕事なのにあり得ない!ご飯にしますよ!!」
「えーやらないの」
「ご飯のあと!」

不摂生なミカさんの食事を準備すべく、しゅっと服を着て、台所へ。冷蔵庫を開け……

「なにもない!」
「料理しないんで」

なんてことだ!

「ちょっと買い出しいってくるんで!待っててくださいね!」
ぱぱっとミカさんに服を着せ(放っておいたら裸のままの予感がした)、近くのスーパーへ。適当にパスタやらパンやらを買い、ミカさんの部屋に帰る。パスタソースを使った手抜き晩御飯。所要時間、わずか30分ちょい。

「ミカさんできましたよ……寝とる!!」

またか!この30分でぐっすりお眠りになっておられる。
……この人すぐ寝るな。

前回は放置したが、今回はご飯を食べさせるため起こさなければならない。ぐずるミカさんを叩き起こし、食卓につかせる。

「ねむい……ていうかやらないの」
「まずご飯です!野菜も食べてね!」
「ママかよ……」

うつらうつらしつつパスタを平らげるミカさん。その後も眠そうだったので、ベッドに戻してあげたら、すぐに寝入ってしまった。

この人の生活、どうなってるんだ。不健康の極みなのでは?
ファンとして非常に不安である。痩せてるのも、ダイエットしてるからじゃなくて食べてないからだったりして。
嫌な予感に冷や汗が出る。本当に、本当にファンは推しの健康と安全を祈っているのだ。こんな不摂生、見過ごせない。忙しいスケジュールの中、いつ倒れるかと思うと恐ろしい。

どうにかせねば。





「ということで、晩ご飯係をやらせていただいてもよろしいでしょうか」

次の朝。起きてきたミカさんに提案をした。

「晩ご飯係ってなに」
「図々しながら、ミカさんの晩御飯を作りに来させていただいて、ミカさんの食生活のバックアップに貢献させていただきたく思います。なんなら次の日の朝ごはんも作りおきしますので」
「家政婦さんみたい」
「ミカさんの健康のためならなんにだってなりますよ!まじで!ご飯食べて健康に暮らしてください!!」
「……なんでそんなにこだわるの」
「ミカさんが心配なので」
「ふーん」
「失礼ですが、ミカさん危機管理能力もぽんこつだし、不健康だし、いつ死んでもおかしくないですよ。そんなのファンとして見過ごせません!」
「ファンねぇ……」

少し考えた様子を見せたミカさん。

「セックス込み?」
「ま、まあ機会があれば……」
「ふーん。じゃあ来て。」

あっさりと了承され、スペアキーまで頂いてしまった。

「外食の日は連絡するから。それ以外の日は来てくれる?」
「わかりました」
「そんでセックスね」
「……はい」


というわけで、わたしはミカさんの晩ご飯係になったのであった。
……予想外の展開である。元々抱かれに来たんだけど。ミカさんのあまりのポンコツぶりに黙っていられなくなってしまった。いちファンとしてでしゃばりすぎなのは重々承知なのだが、いかんせん世話焼きの血が騒ぐ。アイドルとかアイドルじゃないとか置いといて、こういう人は世話したくなる質なのだ。

「じゃあまた来ますね。」
「わかった。じゃあまたね」


そうして二回目の逢瀬(?)は終了したのであった。