9×9

オリジナルBL・百合小置き場

百合「抱いてください」(1)

抱いてください(1)

仕事帰り、閑散とした街中を歩く。赤信号で待っていたとき。ふと隣を見ると、なんと、なんと!わたしの大好きな女性アイドルいた。素っぴんマスクでも、特徴的な目元で分かる。まじで目力の強いお姉さんキャラなのである。大好き。出会っちゃった。出会っちゃったよ!!好きな人に!!!やばい!!!今日はなんて素晴らしい日!!!!!
あまりにもテンションが上がり、図々しくも相手に喋りかけてしまった。


「あの、もしかしてミカさんですか」

思いきって声をかける。

「はい、そうです。素っぴんでお恥ずかしい」
「いえそんな!素っぴんもお美しい!!!」

興奮するわたし。興奮しすぎてとんでもないことをいってしまった。

「ファンです!1回でいいので、秘密にするので、抱いてください!!!」

言ってから後悔した。わたしは何をいっているのか!
しかし、相手からの反応は予想外であった。

「いーよ。ワンナイトラブというやつならね」

か、軽い!ちゃらい!!意外とちゃらかったわたしの推し!!!と思いつつもやったー!ラッキー!ダメ元でも言ってみるものだ!と小躍りしながら彼女に付いていったのであった。



「ここは……」
「自宅」
「自宅!?」

連れてこられたのは、なんと自宅。自宅!?

「わたしが言うのもなんですが、色々と無防備なのでは……ファンとか変質者とかメディアとか……」
「細かいことは気にしないタイプなんで」
「そうでしたね」

ミカさんは結構大胆というか、雑なキャラなのである。そこがいい。しかしこれはメディアで見るよりも更に大胆、というか大胆を越えて危険レベルなのでは……


「ま、それはいいから脱いでくれる?」

はい雑!!

「お風呂を借りてもよろしいでしょうか」
「どうぞ」


えらいことになってしまった。自分から言い出したこととはいえ、流石にこれはまずいのではないか。今さら常識人としてのわたしが顔を出した。いくらミカさんが大胆で雑だからといって、そこに甘えてこのような……いやしかし合意は確かに存在しているので……いや合意があっても行為に及ぶのが不適切な場合が……


などとぐるぐる考えつつ、シャワーはひとまず終えた。洋服をもう一度身につける。やめておこう……流石にだめだよね……サインだけもらって帰ろ……そう決意して部屋に戻る。


「あのうミカさーん……寝とる!!」


寝とる!!!
ありきたりの展開といえばそうだけど、流石にこの場合無防備にも程があるのでは!?ミカさんの危機管理能力ぽんこつすぎ!!!

これじゃ帰ることもできない。オートロックとはいえ、チェーンまでかけてもらわないと困る。ファンはアイドルの健康と安全を常に祈っているのである。……こんなことになってるわたしが言うのもアレですが。
困惑しつつ、帰れないわたしは、ソファを拝借して一晩過ごしたのであった。



次の日の朝。普通に仕事があるので、早めに起きる。ミカさんは爆睡していた。ず、図太い……
帰るにあたって、ひとまず1回起きてもらわねばならないので、声をかけた。なんともいえぬ呻き声をあげながら起きたミカさん。
「……朝じゃん」
「おはようございます。あの、わたし帰りますね。鍵かけてください。」
「ああ……ていうか何もしてないの?」
「してないです」

不思議そうにするミカさん。

「好きにしたらよかったのに」
「いやまさかそんな!?そんなことはいたしませんよ!?」
「そうなの?」
「普通はね!!!!」

ミカさん。わたしの好きなミカさん。まさかここまでの、ここまでだとは思わなかった。ここまでの……ぽんこつ!!

「ちょっとファンとして、いやそれを抜きにしても不安です!危なすぎ!!危機管理能力ぽんこつすぎる!!」

よく今まで無事に生きてきてくれたなー!!本当にありがとう!!
謎の感謝。いやまじでこんな人間が今まで健康で無事に生きてこれたなんて……周りの人たちのフォローがあったのかしら……大変そう……ありがとうございました……などと勝手な想像をして勝手にありがたがる。

「でも今までこれで生きてこれたんで」
「奇跡かよ」

突っ込んで、はっと気付く。会社の時間があるんだった!


「あの、わたしそろそろ帰りますので、是非とも、安全を期して、ちゃんと、ちゃんとしてくださいね!!」
「はいはい……ところで名前なんだっけ」
「カナです!」
「カナさんかー電話番号教えて」
「はい……はい!?」
「顔めっちゃ好み。次はかならずやろう」
「開けっ広げ!!!」

とかいいつついそいそと連絡先を交換するわたし。

「じゃあまた連絡するんで」
「はい……あっ、お仕事頑張ってください!!いつも応援してます!!」

うっかり忘れてたけどミカさんはわたしの推しなんだった。最後にファンっぽいことを言っておこう。

「ありがとう」

ちょいちょいと呼ばれて近づくと、ちゅっとキスされた。

「なんですか!?!」
「いや、ファンだって言うから嬉しいかなと思って」
「うれし……嬉しいけどこんな!?ファンだからといって?!」
「まあ流石に人は選んでるから安心してよ」

じゃ、仕事あるんでしょ。またね。


送り出されてミカさんの部屋を出る。
なんだったんだ……ミカさんとは一体……



そういえば、わたしは選ばれたからキスされたのね!?み、身に余る光栄!!と後から気付いて意識が吹っ飛びそうになった。

衝撃の出会い。しかも次があるらしい。
そわそわしながらミカさんからの連絡を待つのであった。