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オリジナルBL・百合小置き場

BL「魔王様のお連れ合い」(2)完結

魔王様のお連れ合い(2)


実家に帰って2週間。
今までも人間界に行ったときは顔を出すようにしていたので、今でも俺の居場所はある。家に帰り、もう魔界へは帰らない、と言ったときは家族に驚かれた。

「魔王様は何も言わなかったの?」
「止めもしなかったわ」

あらまーという顔をした母。怒り気味の顔をした父。

「いきなり息子を拐われて、どんなに悲しい思いをしたか。大事にすると言われたから黙っていたものの、こんな体たらくではもう認められん。家にいなさい。」

めったに怒らない父。なのにこんなに怒らせてしまったくらい、無茶をした魔王のやつには俺も腹が立った。俺だけじゃなく、家族まで悲しませて。友人たちにも、心配をかけている。

「もう帰らないんだ。俺はこっちで幸せになる。」

断言する俺に、「そうしなさい」と言う両親。とにかく、俺は人間社会で生きると決めた。何があってもだ。

……と、意気込んだはいいものの、2週間経った今でも、何も起こらない。つまり、魔王からの連絡も一切ない。

「別れるなんて許さねーぞ」

あの言葉はなんだったのか。何らかのアプローチがあると思っていたが、なーんにもない。

所詮その程度。
そんな相手に、今まで振り回されていたのかと思うと、めちゃくちゃ腹が立った。もっと早くに帰ったらよかった!

完全に魔王には見切りをつけた。今度は自分で自分の幸せを掴みにいく。

ということで、俺の恋活が始まった。



あのあとから、恋人マッチングアプリを導入し、何人かと交流を深めた。
今日はそのうちの一人と会う日だ。

待ち合わせ場所で待っていると、相手方から連絡が。

「申し訳ない、インフルエンザの陽性反応が出てしまって、今日は行けなさそうだ」

それは仕方ない。最近、インフルエンザAだかBだかが流行っている。

「お大事になさってください。また後日会いましょう。」

返事をして、帰った。肩透かし。つまんねーの。


数日たって、今度はまた別の人と会うことになった、のだが、その人もまた欠席。理由は胃腸炎。これも仕方ない。今インフルエンザだけでなく胃腸炎も流行している。


また数日後。今度の人も欠席。引ったくりにあったようだ。これも仕方ない。最近やたらと引ったくりが多い。あとオレオレ詐欺も流行っていて、警察から注意喚起が出されるほどだ。


……人間界荒れてねぇか?

いやーな予感がした。魔界が荒れるとき、人間界へも負の影響が出る。だから俺たちが喧嘩して魔界が荒れかけたら、善の神が止めに来るのだ。人間界への影響を懸念して。

もしかしたら魔界が荒れてんのか?このままエスカレートしていったら、さらに悪質な疫病の流行や大規模犯罪とか起きそうだ。それはまずい。

ひとまず善の神に連絡を取ってみよう。

「はいはいご連絡ありがとうございます。魔界えらいことになってるよ~一回帰ってきてよ~」

いきなり泣きつかれた。

「そんなにやばいのかよ」
「もう魔王が駄々こねまくりで荒れるわ荒れるわ、もう手がつけられないんだよ~」
「……俺のせい?」
「まあ原因ではあるけれども~」
「俺がいなくてあいつ困ってんの?」
「そうよ~もう勘弁してほしいよ~」

不謹慎にも、少し嬉しくなった。俺の行動がある程度あいつにダメージを食らわせられていたんだな。その程度には俺のことを想っていたわけだ。ふふん。

「でも俺はもう帰らないって決めたんだよ。あんな我が儘クソ野郎のお連れ合い様なんてやってらんねーわ。」
今の生活の、なんと穏やかで自由であることか。
「大体俺に未練があるならあっちからアプローチの一つでも取るだろうが。それもしないまま帰ってこいとは随分横暴だな。」
「正論!でも魔王には正論なんて通じないんだよね……面倒だなあ」

最後に本音が出てるぞ。
こちらとしても、無駄に人間界を荒らすのは本意ではないし、善の神ばかりに負担をかけるのも申し訳ないので、一度魔界へ行くこととなった。

一度家に帰り、魔界へ行く旨を伝えると、父が怒った。
「そんな下らないやつの所へ行く義理はないだろう!」
まあ確かに。
「でも人間界が荒れるのは困るからさ。話し合いでもして穏やかに別れてくるよ。」
「そもそも人をさらうようなやつと穏やかな別れ方ができるとは思えない。監禁されでもしたらどうする」
それも確かに。
「俺も行く。」
「えっ、とーさん来てくれるの」
「親として子が悲しむことになるかもしれないものを見過ごすわけには行かない。」

そう言って、父は鉄パイプを手に戻ってきた。

「とーさん現役引退したんじゃないの」
「息子のためなら、一肌脱ごう。」
「わたしも行こうか?」

母も鉄パイプを取りに行こうとする。

「かーさんも来てくれるの」
「あんたのためならね」

「じゃあ俺もmy鉄パイプを持っていくことにしよう」

うちは不良一家なのである。

ということでそれぞれ鉄パイプを持ち、魔界へ踏み込んだのであった。



確かに、魔界はえらいことになっていた。グロいので詳細はカットするが、まあとにかく荒れに荒れていた。魔王の気分ひとつで生活を変えられてしまう魔界のものたちも大変だ。ますます魔王への怒りが募る。

そのぐっちゃぐちゃな町を通り抜け、魔王のすみかへたどり着く。

「開けんかいごるぁ!」
扉を鉄パイプでぶん殴りながら怒声を発する父。まだまだ現役のときの勢いは衰えていないらしい。俺もあんな不良になりたい。憧れ、誇りに思いながら魔王のもとへと進んでいった。


魔王のすみかもまた、ぐっちゃぐちゃであった。ぐっちゃぐちゃのなかで、善の神が膝に天使を抱えながら、「もう拗ねるの止めてよーいい大人でしょー」と適当な声をかけている。大分疲れているようだ。

「善の神、来たぞ。苦労を掛けたな。」
「あ~~~ありがとう~~~もうわたしには何もできないよしんどい~~~」
膝の上の天使を撫でくりまわしつつ善の神はぐったりとした様子を見せた。

「なんか起きそうだからもうしばらくここにいるけど、終わったらもうわたしすぐに天界に帰るからね~」
よろしく頼むよ~

おう、頼まれたぞ。

ひとまず、布団の中にくるまって駄々をこねている魔王を引きずり出す。

「なにしてくれとんじゃおるぁ!魔界も人間界もえらいことになってんじゃねーか!」
襟首をつかみながらガンをとばす。

しなしなとしていた魔王は、俺の行動に触発されたのか、俺の襟首をつかんで凄んできた。

「ああ?誰のせいだと思ってんだよ」
「誰のせいだ?知るかよてめえが勝手に拗ねて迷惑かけてんだろうが」
「はあ?お前がいなくならなきゃよかったんじゃねえかよ」
「俺が出ていく原因になったのは誰だ?てめえだろうが!」

ぎりぎりと睨み合う。
そこに父も参戦してきた。

「おらこのクソ坊主、俺の息子を大事にするって言ったのはどの口だ?息子を傷つけないと言ったのは誰だったか?ああん?」
「てめえはすっこんでろよ」
「なんだとおら、誰がお前と息子の結婚を認めたと思ってるんだ、人拐いのクズを認めてやったのは誰だ??」
「認められなくても拐ってたわ。でかい顔しやがってうるせぇな」

と魔王が言った瞬間、魔王の顎にアッパーが入った。

「うちの夫に因縁つけるつもりか?」
母だ。
「こっちが黙ってりゃ言いたいこと言いやがって、てめえみたいな尻の青い男に息子を預けたことを後悔するわ。今すぐ別れろ。」
「うるせえなババア」
もう一発、今度は頬に拳が入る。

「うちの妻をババア呼ばわりとは良い気になってんじゃねえぞ」
魔界も治められねえ青二才を誰が信頼するか!別れろ」
「プリンも我慢できないようなクソとは付き合ってらんねーんだよボケ」

俺たち家族に詰め寄られる魔王。

「大体てめえは息子のことを好きだから拐ったとか言ってたじゃねえか。息子から聞く限り愛されもしてないようだが?」
「結婚は愛し愛された人としなさいというのがうちのポリシーなんだよ。ただのクズとは結婚させねーぞ」
「てめえから愛された実感なんてねぇよバーカ。今回も謝りにも来なかったじゃねえか。愛もない上に誠意もないのかよ」

散々責められて、とうとう魔王が折れた。

「好きなのは本当なんだよ!」

「おっと、それははじめて聞いたなあ。」
「なんだと、ここまで追い詰められないと言えないとは情けない」
「幼児でも愛の告白はできるわ。お前いくつだよ」

「1574才です……」と蚊のなくような声で答える魔王。それも知らなかったわ。いい大人どころの話じゃねーじゃん。

「とにかく今のお前と息子の交際は認められん。おい、お前はどうしたい」
父に問われて考える。

「ひとまず別れるわ。愛し愛されしてねーからな。」

「愛している!」
悲鳴のような声をあげる魔王。
ももう遅い。

「愛してるだけじゃ何にもならねーんだよ。お互い大事にしあって成り立つんだ。愛してるから今までの横暴ぶりを許せだなんて都合の良いこと言ってんじゃねえぞ」

だから、別れる。

えーんと泣き出してしまった魔王を見つつ、こいつただの子どもじゃねーかとあきれた俺であった。別れて正解だな。





それから。
「頑張りますので会うことだけは許してください」
と頭を下げて頼んだ魔王に、父も少し態度を緩め、
「通ってこい。魔界の統治にも手を抜かずにな」
とOKを出したのであった。

かくして俺は人間界に帰って来た。たまに魔王が手土産をもってうちにやってくる。以前の横暴さは大分ましになった。というか、わがままを言う度に父や母に叱責され、その度に反省しているようだ。

「1574才にしてこんなに成長がみられるなんて。お連れ合い様とご家族には頭が上がらないよ~」

善の神にお礼を言われたことも。

まあそれはさておき。
「もうお連れ合い様じゃねーよ」

そう、魔王との交流は続けつつ、俺は俺で幸せを探しているのである。魔王とは別れたしな。反省してるからといって、元サヤに納まらねばならない義理はない。

前に会えなかったインフルエンザの人とも、胃腸炎の人とも、引ったくりに遭った人とも会った。この3人とも、お付き合いを視野にいれつつ交流している。


俺の幸せは俺が掴みにいくのだ。
愛されるだけじゃなく、俺も相手を愛することができなければお付き合いはできない。


その相手が誰になるか。それはまだ分からない。


ひとまず今は魔界もおさまり、人間界も穏やかで、魔王も大人らしくなってきている。平凡だが、自由だ。

幸せになりたい。そのためにせっせと相手を探す俺であった。