9×9

オリジナルBL・百合小置き場

百合?「みっちゃんの恋人はふわふわ」(3)

みっちゃんの恋人はふわふわ(3)


幼い頃、お気に入りの滑り台になにかふわふわしたものがいた。そのふわふわが見える子もいれば、見えない子もいたんだけど、わたしにはくっきりはっきり見えていて、なんでいつもあそこにじっとしているのか分からずに、いつも気にしていた。滑り台、楽しいんだから遊べばいいのに。

ある日、またふわふわが滑り台の下にいたので、思いきって声を描けてみた。
「こんにちは。みちだよ。いつもここにいるの?」
「こんにちは。そうです、ここがわたしのすみかなので。」

ふわふわはしゃべることができた。耳で聞くというよりは、頭のなかに響いてくるようなもの。
前から気になっていたふわふわとお喋りできたことに嬉しくなって、ふわふわに一緒に遊ぼう!と、提案してみた。するとふわふわは、少しぴかぴか光ったあと、「是非!」と嬉しそうに答えたのであった。

これが、わたしとふわふわの出会い。





「みっちゃん、朝ですよ。お父さんが呼んでいます。」
「……おはようふーちゃん。起こしてくれてありがとう。」


ふわふわとの出会いから、はや13年。わたしは大学生をやっている。

「おとーさん、おはよう」
「おはよう。ふわふわさん、いつもありがとう」

おとーさんはふーちゃんにぺこっと頭を下げ、「いってきます」と言って出勤していった。
今度は台所にいるおかーさんに声をかける。

「おかーさん、おはよう」
「おはよう。今日は大学何時から?」
「一時間後くらいから」
「じゃあ早くご飯食べなきゃ。ふーちゃんは何かたべる?」
「いえ、わたしは今日は日光浴をしたので」
「それならいいか。」


ふーちゃん。13年前、滑り台の下で出会ったふわふわしたもの。怪奇現象の一種らしい。でも嫌なことをしてくる訳じゃなくて、その辺をふわふわしてるだけ。たまに光ったり色が変わったりする。食べ物も、食べられなくはないけど、どうも基本は光合成で生きているらしい(生きているというか、存在しているってかんじ?)。10数年たった今でも、よく分からないことばかりだ。でも、ふーちゃんを好きな気持ちは変わらない。

5才のとき。滑り台の下でであって、家に連れてきたときから。わたしたち家族と、ふーちゃんとの交流は始まった。わたしは幼さと、好奇心と好意で特に気にしていなかったが、親は苦労したようだ。そりゃそうだ、いきなり5才の娘が謎のふわふわ怪奇現象を連れてきて「カノジョ」だと紹介されたのだから。後から考えてみれば、あのとき拒絶されたり、ふーちゃんに会うのを禁止されたりしなかったのは本当にありがたいことだった。今もふーちゃんと過ごすことを受け入れてくれている、おかーさんとおとーさん。その寛大で柔らかな心には感謝しきりである。

そんなわけで、親公認のお付き合いは、13年間続いているのである。もはやふーちゃんは家族の一員みたい。

夜は滑り台の下に帰ったり、うちにお泊まりしたり。たまに一緒にご飯を食べたりもする。そうやって過ごしてきて、ふーちゃんが側にいるのは当たり前になっていた。



「じゃあ、いってきます。」
おかーさんにそう告げて、ふーちゃんと一緒に家を出る。いいお天気。こういう日はふーちゃんの調子がよくなる。楽しそうなふーちゃんにくるまれて、バスに乗った。

バスに乗ると、何人かがこちらを見て、少し驚いたような顔をする。こういう人たちは「見える人」だ。特になんの反応もしないひとは、「見えない人」。もしくは、見えていても気にならないくらい、日常的に「付き合いがある人」だ。今日のバスにも、肩に謎の石ころを乗せているお兄さんがいる。この人も「付き合いがある人」だろう。

空いている席にちょこんと座る。わたしのまわりをふわふわしていたふーちゃんは、くるくると丸まって膝の上に収まった。ふーちゃんを連れて座っているときは、これが普通のスタイル。

大学に着くまで、少しうとうとする。と、ふいにふのももの辺りを何かがかすめた。ぱちりと起きてみると、知らない人が隣に座って、わたしの太ももの辺りを触っている。

「やめて!」そこにはふーちゃんがいるんだから!勝手に触るな!
「やめなさい」その子はわたしのカノジョです。

同時に叫ぶ。見る間に赤黒く染まったふーちゃんが、するするとその人の手首から首もとに這い上がり、巻き付いた。

その人は「見えない人」だったようだ。急に首がしまったことに驚いている。
わたしもふーちゃんも、頭に血が上ってしまっていたとき。

「さすがにやめておきな。死ぬよ。」と声をかけてきた人がいた。はっとする。あの、石ころを肩にのせたお兄さんだ。

「ふーちゃん、もうやめて。」
「……仕方ないですね。」

未だ怒りに色づいたまま、ふーちゃんはすすすとこちらに戻ってきた。わたしたちを触った人は、慌ててバスを降りていった。

「警察につきだしてやりたかったです。」
全くだ。
「それなら首はやばいよ。腕の拘束ぐらいにしておかないと、こっちが責められる。」
お兄さんの忠告に、確かに、と頷いた。次からはそうしよう。
しかしまだふーちゃんは納得がいかないようだ。「わたしの、わたしのみっちゃんに触るなんて」とぶつぶつ言っている。

でも、お兄さんにはお礼を言わなければならない。
「お兄さん、止めてくださってありがとうございました。」
「……わたしの方からもお礼を。ありがございます。」

二人(正しくは人間のわたし一人と怪奇現象のふーちゃん)でぺこりと頭を下げる(ふーちゃんに頭はないけど)。

「いいよ。しかし、君のところの方は随分君を大事にしているんだね。行き過ぎない方がいいよ。」
この世の中は、まだ不思議に慣れていないから。

「はい」
「……はい」

しぶしぶ頷くふーちゃんに、お兄さんは少し笑った。
「大分執着心が強い方のようだ。」
「そうなんですよー」

軽くお兄さんと会話をし、大学前でバスを降りた。

ぶすーっとしたままのふーちゃん。だけど、執着心が強いっていうのは本当でしょ。脳裏に、いままでふーちゃんがやらかした事件の数々がよぎる。


小学生に上がったとき。ふーちゃんのすみかの公園で、その頃一番仲のよかった子から告白された。「みちにはもうカノジョがいるんだよ」って言いかけた瞬間、ごうっと風が吹いて、その子が転けた。びっくりしていると、ふーちゃんがぴゅーっとやって来て、「みっちゃんのカノジョはわたしですよ、断って」と急かしてきた。相手の子は転んで泣いているのに、とにかく断れとうるさいふーちゃん。幼心に、これは面倒な相手を掴んでしまったぞ、と思った。

それからも、度々こういうことがあって、家族会義になったこともあった。
「みちの友人関係にまで過度に介入するのは止めてください。」
「相手に怪我をさせないで。無害だから僕はみちとの付き合いを見守っているのだから。」
親に言われて、しぶしぶながら過干渉はやめたふーちゃん。でも、ちょいちょい、執着心の強さは見え隠れしていて、家族でため息をついたりしたことも。丁寧で控えめとみせかけておいて、結構わがままで主張が強い怪奇現象に家族で困り果てたときもあった。

一番やりやがったなこいつ、と思ったのは、3年前。丁度、お付き合い10周年の日だった。やたら執着心は強いけど、優しくて、わたしのことを大事にしてくれるふーちゃん。家族もお祝いしてくれて、ちっちゃいパーティーみたいになったその日の夕飯。みんなでテーブルを囲んで食事をしていたら、ふーちゃんから、衝撃の告白が。
「みっちゃん、わたしは初めてみっちゃんに会ったとき、名前をつけてほしいと言いましたよね。」
「うん、ふわふわしてたから、そのままふわふわって名前にしちゃった。安直でごめんね。」
「いえ、謝らなければならないのはわたくしの方なのです。もう時効かと思いますので申し上げますと、実は……」

名前をつけてくれた人とは、永遠の絆ができる。関係性が変わることはあるかもしれないけど、別れることはない。

「えー!!!」
びっくりするわたし、顔を覆うおとーさん、怒った顔のおかーさん。

「まだ小さい子に説明もせず、親にも無断で何やってくれたの」
「申し訳ありません」
「ああ、一生みちとふわふわは共にいきるのか……」
「子の友好関係には口を出さないとは言いましたが程度がありますよ」
「父としての覚悟が足りなかった……」
「ふーちゃんそれはずるっこだよ」
「ごめんなさい」


流石にそのときは、怒ったおかーさんにより、ふーちゃんに対して1ヶ月みちに会いに来ないように!という謹慎処分がおりた。わたしも流石にフォローはできなかった。

あのときの一言が、人生すべてに関わってくるなんて。
ちゃんと説明してほしかったな。隠しておかなくても、わたしはふーちゃんを好きになったんだから、一生のお付き合いを約束したのに。不意打ちにしちゃうなんて、信頼してくれてなかったんだな。
悲しくなったり、腹が立ったり。10年間かけて築いた関係はなんだったんだろうって、おとーさんやおかーさんと慰めあったりもした。

あの日から3年。一度地に落ちた信頼はなかなか戻らない。おかーさんとおとーさんとわたしとふーちゃん、変わらずお付き合いはある。だけど、おかーさんとおとーさんの態度は厳しくなった。わたしの態度も、少しぎこちなくなった。「信じていたからこそ」、怒ったり、悲しんだりしているんだ。流石にこのことはふーちゃんにも伝わったようで、10年分の裏切りを埋め合わせるように、日々誠実に頑張っていてくれる。
自分の欲望がコントロールできずに人を傷付けたり悲しませたりするものは、人間だろうとなんだろうと許さない。
おかーさんの強い叱責に、大分反省したようだ。昔のような執着や介入はなくなった。


でもやっぱり、ふーちゃんは執着心が強い。こういうのヤンデレっていうの?分からないけど。初対面の人にも言われちゃうくらいには、わたしはふーちゃんに執着されている。


それでも、わたしはふーちゃんが好きだからいいのだ。最初の10年も、ふーちゃんのことは好きだった。それからも、ふーちゃんが好きだ。ふーちゃんのついた嘘、許せないけど、嘘をつかれたのが悲しかったからで、一生をふーちゃんと共にすること自体は嫌じゃない。というか、わたしは早くふーちゃんとケッコンしたいのである。

民法改正によって女子の結婚年齢が18歳にあげられるとかあげられないとか。相手が人間じゃないので、現行法では適用されないからどっちでもいいけど。とにかく早くケッコンしたいのである。幼いときからの夢なんだもん。


「ふーちゃん~、いつまでもぶすっとしてないで、みちとしゃべってよ~」
ふーちゃんに話しかける。「見えない人」からしてみたら、わたしは1人で空中を見つめてしゃべる変な人に見えるだろう。まあそれはどうでもよくて。

「もうケッコン式まで半年だよー!色々決めなきゃいけないじゃん!ぶすっとしてる暇なんかないんだから!」
最高のお式にしようね!

半年。半年後、わたしたち人間と、それ以外の存在のケッコンが認められるようになる。そうしたら、わたしはいの一番でふーちゃんとケッコンするのだ。ずーーーーっとしたかった、ケッコン。その夢が叶う日が、半年後に待ち構えている。

「なにがあったってふーちゃんとみちは一緒なんだからさ、焦らずのんびりいこうよ」

でしょ?
みちのこと、縛り付けたのはふーちゃんなんだから責任とって大事にしてよね。


「……そうですね、いつまでも腹をたてているのは大人げない」
わたしはみっちゃんにも、ご家族の方にも、誇ってもらえるような存在になるときつく決心したのですから。


やわらかな色合いに戻っていくふわふわ。そのふわふわをまといながら、弾むように歩くわたし。未来は明るい。なにが起きても、ふーちゃんとはずっと一緒だ。なにを気にすることがあるだろう?5才のあの日から、今まで、ずっと一緒にいるふーちゃん。これからもずーっと一緒。そのうちカノジョから妻になるふーちゃん。考えただけでわくわくする!


「ねー、これから楽しみだね!」
「そうですね」


ふわふわ、まといながら今日もすごす。明日も、明後日も、ずっと。