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オリジナルBL・百合小置き場

百合?「みっちゃんの恋人はふわふわ」(2)

みっちゃんの恋人はふわふわ(2)



娘が生まれたとき。会社の子持ちの男性陣から散々言われた言葉。
「いつか娘がコイビト連れてくるから、覚悟しておけよ」

古典的だなあ、僕は子どもは子どもで好きに生きてくれればいいと思うんだけど、なんて余裕をかましていたあのときの僕に言ってやりたい。娘がコイビト連れてきたとき、おまえは、腰抜けるくらいびっくりするからな。





「えーっと、わたくしがみちの父、太一です。えー、そちらの方がみちの恋人の……?」
「ふわふわと申します。お疲れのところ、お時間をとっていただき大変申し訳ありません。」
「いえ、それはまあ……」


帰宅直前、妻から送られてきたメッセージ。
「今日は来客があるから気合い入れて帰ってきてね。」
はあ、来客。誰が来ているんだろう、気合いをいれなければならないような相手っていたかな?不思議に思いながら、一応ひととおり身だしなみを整え、帰宅。

そこには、想像を越える不思議が待っていた。

四人掛けの食卓に座る、妻と、娘と、……もや?

「おかえりなさーい!」
「ただいま……?」

呆然と立ち尽くす僕に、空いている席を勧めてくる妻。ひとまず、椅子に座ると、もやが目の前にくることになる。なにこれ。

「おとーさんあのねー、みちねー、カノジョできた!だからゴホウコクだよ」
そういって娘は、隣に座るもやに抱きついた(ような動きをした)。

そして冒頭に戻るわけである。

なんと丁寧なもやであることか。
そこから、もやの正体と、今に至るまでの経緯を聞いた。妻の方は、もやと先に一通り話をしていたようで、僕のとなりで悟ったような顔をしていた。が、僕はまだ話がのみこめない。怪奇現象がみちのコイビトに?カノジョ?そりゃちんちんついてないのは分かるけど怪奇現象にカレシとかカノジョとかあるの?ていうか……ていうかなにがおきているのか!!??父は着いていけないよ、みち!!!


「すみません、今日は突然のことで困惑させてしまいましたね。納得がいかないことも多いでしょうし、今日はひとまずお暇させていただきます。お時間をとっていただき、誠にありがとうございました。」
では失礼致します。

混乱する僕を気遣うように、ふわふわは去っていった。
見送りに玄関までやってきた僕の隣で、みちは元気よく「またねー!」と手を降っている。ふわふわは、少し発光して帰っていった。


「……みち」
「なにー」
「ふわふわは、あのー、えーっと」
「みちお腹すいた!ごはーん」
「ああ……」

聞きたいことも聞けないまま、というか何をどこから聞けばいいかというところから分からない。父になって5年。色々あった。妻と助け合い、なんとかやってきた5年間。出産のときも手に汗握ってどきどきしたけれど、今もよく分からない汗を大量にかいている。みちにカノジョ。まあ、それなりに人間関係が発達していく時期だ。カノジョとかカレシとか、ケッコンとか言いだす子がいてもおかしくない年齢だろう。うちの娘もそう言ったっておかしくはない。それはいい。問題は相手が人間ではないというところである。もや。もやを連れてこられて、はいこれがカノジョです!と言われても、僕にはちょっと受け入れられない。もやだよ!?


「怪奇現象をカノジョにするうちの娘は一体……?」


娘のポテンシャルすごい。なんのポテンシャルかは知らないけど、並大抵の人間にはできないことだろう、若冠5才にして怪奇現象を虜にするとは。


しばらく玄関でぼんやりしていたようだ。リビングから、「おとーさーんごはんだよ!」と声がかかるまで、僕は1人立ち尽くしていた。


その夜。
娘が寝たあと、妻と二人で話し合いをした。妻は見守る方向でいくらしい。相手が怪奇現象であることについては、ひとまず横においておいて、みちの幸せを重視するということだった。
僕はというと、そこまで覚悟も決められず、とにかく混乱するばかり。妻から、みちはふわふわと結婚したいらしいと聞いたときは、情けなくも「ひぇぇ」という声がでた。

みちとふわふわの結婚式。教会か、神社か、寺か。バージンロードを歩き、ふわふわのもとへ娘を送り届けることになっちゃったりとかするんだろうか。ふわふわに指輪ってはめられるの?神社なら三三九度とかあるけどふわふわに飲食という概念はあるのか?想像を遥かに越えた想像。なにもかもが分からない。


「……僕はまだ、なにも分からないよ。ふわふわが丁寧なやつだということは分かったし、みちもふわふわに好意を持っているというのは分かった。でも、それ以外のことは全く予想がつかなくて、正直に言うと怖い。」
「分かるよ」

妻が手を握ってくれる。ああそうか、僕は家族と一緒にふわふわを迎え入れたけど、妻は1人で対応したんだ。とても心細かったであろう。僕たち夫婦に降りかかってきた難題。「娘のカノジョが怪奇現象」。前代未聞である。


「分からないから、分かるまで、付き合っていくしかないと思う。みちがふわふわと付き合いたいと思っている間は、みちの思うようにさせてあげたい。その上で、ふわふわが怪奇現象であることで起きる困難に、対応できるよう、親としてバックアップしていこうと母は思う。」
「ただ、おなじことをあなたに求めることはない。あなたは、あなたのやり方で向き合ってあげてみて。」

無理はしないでね。


そう告げて、妻は寝室へと消えていった。


娘のカノジョが怪奇現象。娘のカノジョが怪奇現象。何回繰り返し考えてみても、理解ができない。ああ困った。僕だって娘の幸せを応援してやりたい気持ちは一緒だ。それは本当の気持ちだ。でも、それっておかしいんじゃないか!?という気持ちも、無視できないくらい存在する。ふわふわが嫌いなわけではない。理解ができない。

どうしたらいいんだろう。父として、どうすれば。


ぐるぐると考えていたら、日付が変わっていた。そろそろ寝なければ、明日に響く。全く眠くなんかないけれど、無理矢理にでも寝よう、と、立ち上がろうとしたとき。

「おとーさん」

みちが寝室から顔を出していた。

「どうしたの、トイレ?」
「ううん。ふわふわのことなんだけど」

どきっとした。

「みちはふわふわのこと好きだけど、おとーさんとかおかーさんにもむりやりふわふわのこと、好きになってもらいたいとは思ってないよ」
「こまらせたくてつれてきたわけじゃないんだ。でも、しっててほしかったから」

だから、うーんと、ごめんね。

困り顔で、なんとか言葉を探す娘に、目頭が熱くなった。大きくなったなあ。
娘は娘で、色々考えて、行動している。そうやって考えて、選んだ選択肢のひとつがふわふわとのお付き合いだったのだろう。そのことに、なにを心配することがあるだろう。愛しの我が子、誇れる我が子が選んだというそのことを、受け止めてあげることくらいは、へなちょこ父にもできるんじゃないか。


「困ってはないよ。みちはみちの好きなようにしなさい。大事なこと、教えてくれてありがとう。」


ぱっと顔を明るくし、「うん!」と元気に返事をした娘と手を繋いで寝室へ行く。

「おやすみ。」
「おやすみ!」


就寝の挨拶をして、電気を消して、寝る。なにが起きても、明日はやって来る。そうやって日々は過ぎ、娘はさらに成長していくだろう。親は、それを見守ることしか出来ないのだ。娘の毎日の選択は、娘がする。なにを食べるか、なにを着るか、どこで遊ぶか、誰と付き合うか。その選択を、側で見て、時には話しもして、やっていくしかない。

覚悟は決めた。
どうなろうと、僕がみちの味方であることは変わらない。


とにかく今日はもう眠ろう。妻が用意してくれた胃薬を飲んで。