9×9

オリジナルBL・百合小置き場

百合?「みっちゃんの恋人はふわふわ」

「みっちゃんの恋人はふわふわ」



ある日、娘が恋人を連れて帰ってきた。
「おかーさん、みちカノジョできた、名前はふわふわ」
霧のような、謎の存在を身の回りに漂わせて。


母はこの場合どのように対応すれば良いのであろうか。5才の娘が謎の生き物(???)を連れて帰ってきて、しかも恋人だと紹介された。母となって5年目。まだまだ新人母には無理難題である。ていうか母に限らずこんな出来事に遭遇した人自体いないんじゃない?!

「みち、ふわふわってなに?」

どうにか絞り出した質問。ありきたりだが、この場合一番大切な問題だ。ふわふわってなに。

それに対して、みちは身にまとった霧をぼんやりと指差し、
「これー」
と答えた。

どれ!?なに!?

「どこで出会ったの?」
「こうえんの、すべりだいのとこ」
「結構身近」
「ふわふわ、まえにもすべりだいのとこにいたから、今日はいっしょにすべろーって言ってあそんだの」
「……そうなの」
「楽しかったっ!」
「よかったねえ」

娘の楽しそうな姿についつい笑みがこぼれる。育児って、大変なことも多いけど、やっぱりこういう笑顔を見ると嬉しくなるなあ。わたしって幸せ者だ。などとしみじみとしてしまったが、流石に今回の「大変なこと」は娘の笑顔ひとつで解決できない。

「ふわふわはどんな性格?」
「かっこいー!」
「女の子?男の子?」
「わかんない。おちんちんはついてないよ」

そりゃ見りゃ分かるよ

ますます謎が深まるふわふわ。悩むわたしのまえで、娘がこしょこしょと小さな声でしゃべりだした。もしかして、ふわふわと話しているのだろうか。

「みちはふわふわとお話しできるの?」
「できるよ!」
「……じゃあ、お母さんとふわふわもお話しできるかな」
「ふわふわに聞いてみる」

またこしょこしょと話をしたあと、娘からOKサインがでた。と、同時にふわふわがこちらへ漂ってくる。
こわい!!!
正直なところまじで怖かったが、娘のためだ、多少の怪奇現象では動じない強い母になろうではないか。でもこわい。

硬直しているわたしに、ふわふわがくるりとわたしをくるんだ。


「はじめまして、こんにちは。」


しゃべった!!!!!


「こ、こんちには、みちの母のまちと申します」
しゃべった、というよりも、頭のなかに話しかけてくる系のやつだった。そっち系のアレか。柔らかい声色。性別は分からない。

「この度は突然のご訪問になり失礼いたしました。みちさんと交際させていただくことになり、みちさんの方も是非ご両親にご挨拶を、とのことでしたのでお訪ねした次第であります。」
「それはご丁寧にありがとうございます。」

丁寧すぎた。予想外の丁寧さだ。

「ええと、単刀直入で申し訳ないのですが、ふわふわさんはどのような存在なのでしょうか。」

恐る恐る聞いてみる。でも大事なことだ。頑張れ母!

「わたくしは、見ての通りふわふわとした存在であります。」
「さ、左様で……」
「あえて分類するのであれば、怪奇現象のひとつと言えるでしょうか。」

怪奇現象が自分のこと怪奇現象だって紹介してるよ!!もうなんなの!!!

「悪意を持った存在ではございませんので、ご安心ください。」
「そうなんですね……」

「みちさんとは以前から面識はありまして、大変図々しながら、わたくしはみちさんに想いを寄せておりました。はつらつとした笑顔に惹かれたのです。」
「今回一緒に遊んでいただき、これを機にと告白いたしましたところ、幸いなことにみちさんから承諾をいただき、今に至ります。」
「そ、そうですか。」

みちの話をしだした途端、ふわふわはつやつやきらきらと輝きだした。これは、一種の感情表現なのであろうか。怒ったりしたら黒色になったりして。
もうぼんやりしすぎてどうでもいい想像が頭をよぎる。とにかく、ふわふわが害のない生き物(怪奇現象を生き物と呼んでいいのかはわからないが)で、みちのことが好きだということは分かった。

「経緯は了解いたしました。ところで、交際ということに関してなのですが……」
「ご不安になられるのも当たり前だと思います。怪奇現象と交際している人というのは少数派ですから、気持ち悪がられたり、受け入れられないことも承知の上です。」
「いや、気持ち悪いということはないのですが……」

うすら暗く色づいたふわふわが、少し光った。やはりこれは感情表現なのだな。

「多数派少数派というのはさしたる問題ではないのです。ただ娘の年齢等を鑑みると、まだ早いのではないかという心配がありまして……交際というものが具体的にどういうものかも知らないでしょうし、友達付き合いというならまだしも、いきなりの交際には不安を感じざるを得ません。」
「ごもっともなご意見だと思います」

怪奇現象にごもっともって言われちゃったよ。

「お付き合いさせていただきたいとは申しましたが、世にいう『交際』というものはいたしません。現段階では、友人関係と同じように、共に遊び、話をしたいと考えております。ただ、わたしの想いは伝えたいと思い、それをみちさんが了解していただいた、という事実がありましたため、『カノジョ』という表現になってしまいました。」
「な、なるほど……」


実に堅実である。


「……母としましては、娘の友好関係に口を出すつもりはありません。娘が考えて選んだのであれば、それを支えることが親としてわたしにできることであると……」

「おかーさん!」

思いの外ふわふわと話し込んでいたようだ。ひまをもて余していた娘が、ぶすっとした表情でこちらへやってきた。

「ふわふわはみちの!みちのカノジョなんだからそんなにべたべたしたらだめなんだよ!ふわふわも、おかーさんはみちのおかーさんなんだからべたべたしちゃだめ!」

あらかわいい。いっちょまえに嫉妬である。

「ふわふわさんについて、正直にもうしますと、まだ不思議な点も多いですが、娘が選んだ方ですし、これからも娘と仲良くしていただければと思います。」
「みちはふわふわともういっぱい仲良しだからおかーさんしんぱいしなくていいよー」

にこっと笑う娘。そしてふわふわにちゅっとキスをした。

「母はなにも言いますまい」

でも父にもちゃんと説明するのよ、と念を押すと、はーい!承知いたしました。と元気よい返事が帰ってくる。


まあ、世の中不思議なこともあるだろう。
夫の反応が気になるところではあるが、わたしはもう反対するつもりはない。にこにこ、ぴかぴかしている二人(正しくは人間一人と怪奇現象)を見ると、まあ幸せならいいか、相手も堅実そうだし。と思ってしまう。まあキスくらいなら5才でもOK。

「ねーふわふわ結婚いつにする?」
「みっちゃん、結婚は大きくなってからしましょうね」
「えー!今したいな~おかーさん、みちふわふわと結婚したい」


結婚かー!結婚はまだ無理かな!!


「現在の民法では結婚は16歳にならなきゃできないんだよ。もう少し待とうね。」
「ふーん」


少しつまらなさそうにする娘。
今後の波瀾万丈な生活に想いを馳せると、くらりとした。


娘、みちの初めての恋人はふわふわ怪奇現象。
しかし仲のよい様子を見ると、まあいいかなという気がしてきた。結局最後はみちの幸せ次第だ。

母は娘の幸せを支えるのみ。頑張れふわふわ、信じているぞ。


そう思いながら、そろそろ帰ってくるであろう夫のために胃薬を用意するのであった。