BL「石油王は就活中」
「僕の長所ってなんだとおもう?」
「油田持ってるとこ」
「……それは履歴書には書けないよ」
俺の友人には石油王の息子がいる。しかも長男であるから、遺産もがっつりもらえる、典型的で将来有望な石油王ジュニア。
それがまさか、就活を始めるとは思ってもいなかった。
「お前の最大の長所でありステータスだろ。ていうかなんで就活なんてするんだよ」
「裕太は就職するんでしょ」
「まあ俺は普通の労働者階級なので」
夢は公務員だ。
「僕も裕太と一緒に働きたいんだよ。大学を卒業しても、ずっと一緒にいたい」
「変わってんね」
「……いまの一応プロポーズなんだけど」
顔を赤くして、こちらを見てくる石油王ジュニア。
「石油王ジュニアのプロポーズって、もっと俺様俺様してるんじゃねーの?他国で見初めた相手を自国に拐っていって、俺の金で養ってやるよ的な展開になるんじゃねーのか」
「裕太はBLの読みすぎ」
否定はできない。
石油王ジュニア、もといカミールは、顔を赤くしたまま問うてきた。
「プロポーズのお返事は……」
ううむと考える。カミールと日本で一緒に公務員。公務員じゃなくなっても、石油王なので将来はおそらく安泰。カミールは日本語もマスターしているので、言語も問題なし。
「やぶさかではないな」
「いまめちゃくちゃ損得勘定してたね」
ばれた。
正直なところ、カミールと付き合うとか考えたこともなかった。というよりは、付き合うと言うこと自体に興味がない。付き合うことに抵抗はないが、付き合う理由もない。
このことについて、今までなんの問題もなく過ごせてきたが、突然相手がある話になった以上、しっかりと考えねばならない。
俺はカミールと付き合うのか。
「裕太が付き合うこととかに興味がないのは分かってるよ。でも、僕は一緒にいたい。それだけで幸せだから、何も求めないから、一緒にいてほしい。」
「おまえはそれでいいわけ、付き合うって世の中ではもっと色々あるだろ」
「そうかもしれないけど、僕は世間の人と同じになりたいんじゃなくて、裕太と一緒に居たいんだよ。だから裕太が側に居るってことが僕にとっては一番幸せなんだ」
とても真摯な眼差し。大学四年間、ずっと一緒に過ごしてきた相手だ。真面目で、嘘をつかないことは分かっている。カミールは本気なんだ。
「もし付き合うとしたら、俺もその気持ちになにか返したいと思う。でも何を返せばいいかわからない。それが気にかかっているんだ」
「そう思ってくれているのはとても嬉しいな。それについては、お互い話し合っていくしかないかなと思う。」
関係の維持、そして発展。
不安もあるが、カミールとなら大丈夫じゃないかなと、思う自分がいる。
「時間がかかるかもしれない。」
「いつまでも待つよ。」
いつまでも。カミールといつまでも一緒というところは、非常に魅力的だ。
「困らせるところも多いと思うけど、それでもいいなら、『お付き合い』できるように思う」
「『お付き合い』、してくれるの」
「ああ、迷惑もたくさんかけると思うけど」
「それはきっとお互い様だよ。恋人として考えてくれなくても、特別になりたいんだ」
特別。
「カミールは既に特別な友達だから、これはもうお付き合いということでいいんじゃね」
「……そうだね」
嬉しそうなカミール。涙ぐむカミール。いとおしさを感じる、この気持ちが恋だろうか。
分からないけど、これからもカミールとはいつでも一緒だ。徐々に分かってくるだろう、この関係に。
「まあまずは国家試験の突破が必要だな」
「そうだね、一緒に頑張ろう」
一緒に。とてもいい関係になれるよう、努力したい。恋かどうかは関係ない。カミールと一緒にいられるなら。俺も幸せだから。
「ところで油田はどうすんの」
「……一応僕のものになる予定」
「公務員は副業禁止だけど」
「誰かに譲ることになるのかなあ」
「まじかよ」
「いいんだ、油田よりも裕太のほうが大事だから」
「そんなに思ってくれてありがとう」
心が暖まる。こんな関係なら、自分でも続けられそうな気がする。
「いつかカミールのこと、特別な存在にしたいな」
「ありがとう」
涙を流すカミールに、ハンカチを渡した。
ちょっとしたことでもありがとうと言われて、なにかとても嬉しい。こういう嬉しさの蓄積が愛とやらにナルのだろうか。カミールとこの関係が維持できれば、俺としても幸せになるような予感がした。