9×9

オリジナルBL・百合小置き場

BL「武藤さんの朝」(3)完結

武藤さんの朝(3)



さて、決戦の日、というとおおげさだが、今日はハヤカワ君との距離をぐっと縮めて見せる。裏に電話番号を書いた名刺をうちポケットに入れ、涼しい顔をしてカウンターへと進む。

「お待たせしました。」

きた。
カップと入れ換えに、名刺を渡す。ハヤカワ君は驚いたようにこちらを見た。
わたしも驚いていた。カップには、「次のお店にも会いに来てください」のメッセージ。ハヤカワ君からカップにメッセージをもらったのは初めてだ。これは……

「お互い考えていることは同じなようだね」

心が弾む。思わず笑顔になる。ハヤカワ君も、わたしと関係を築きたいと思ってくれていた。大人しい彼が、思いきって書いてくれたメッセージ。なんて尊いのだろう。彼の精一杯のメッセージを受けとる。

「もちろん。よければ連絡してくれないか。一度、きみとちゃんと話してみたかったんだ」

カウンター越しじゃなくてね。

そう言うと、ハヤカワ君は泣いた。そこまで想ってくれていたことに、驚き、喜ぶ。
きっとこれから、わたしとハヤカワ君の距離は縮まっていくだろう。わたしはハヤカワ君の特別になりたい。そして、ハヤカワ君にもわたしを特別に思って欲しい。
いつになっても構わない。そういう関係になれるまで、わたしはハヤカワ君に会いに行く。今度からはカウンターの外でも、会えるように。

ハヤカワ君は渡した名刺を大事そうにポケットに入れ、「またご連絡させていただきます」と言って、笑った。




「おはようございます」
「おはよう、ハヤカワ君」

店が移ってからも、わたしは毎朝コーヒーショップへ通う。ハヤカワ君のいれてくれた美味しいコーヒーを飲み、出勤する日課は変わらない。ただひとつ変わったのは、ハヤカワ君がわたしの家でもコーヒーをいれてくれるようになったことだ。店が移転するまでの間、ハヤカワ君とは何度か夕食を共にしたり、家に招待したりしていた。初めて家に招いたとき、ハヤカワ君は「こんなにいいコーヒーメーカーをお持ちなんですか」と驚いていた。じゃあ何故うちの店に?と不思議そうな顔をする彼。「家でコーヒーをいれるより、ハヤカワ君にいれてもらったコーヒーの方が美味しいから。」
そう伝えると、顔を紅潮させて喜ぶ彼。大変かわいらしい。

「……じゃあ、このコーヒーメーカー使わせていただいていいですか。僕がいれるので、二人で飲みましょう」

最高の提案に、すぐさま是非、と返事をする。

わたしの家でハヤカワ君がいれてくれたコーヒーを飲む。ソファの隣に座るのは、ハヤカワ君。なんて素敵なことだろうか。彼とコーヒーを共に飲むことができるようになるなんて。

「ハヤカワ君」

すっとこちらを向く彼。

「これからもまた、コーヒーをいれにきてくれるか?」
「……はい」

相変わらず顔を赤くして返事をする彼。まことにかわいらしい。思わず額にキスをする。
ますます顔を赤くする彼に、わたしはとても満ち足りた気持ちで笑いかけたのであった。



おわり