BL「カウンター越しの恋」(6)
「カウンター越しの恋」(6)
夢のようなあの日から、本当に彼は毎朝やってくるようになった。いつも、スーツに革靴、頼むフレーバーも同じ。ただ、一年前のあの頃とは違う。彼は僕に話しかけてくれるようになった。
「おはよう。」
「今日は暑くなるようだね」
他愛ない会話。それでも十分嬉しい。
それに、彼は、僕の名前を呼んでくれるようになった。
「ハヤカワ君」
制服についた名札を見て覚えてくれた僕の名前。そして、彼の名前も教えてくれた。
「武藤さん、お待たせいたしました。」
武藤さん。この店の近くで働いているらしい。朝、コーヒーをテイクアウトして歩きながら飲むのが日課だったらしい。名前は知っていたけれども、やはり直接彼から聞く情報はいつでも新鮮で、嬉しい。
「今日もお仕事おつかれさまです。」
「ハヤカワ君も。じゃあまた明日。」
今日もまた彼にコーヒーを渡し、仕事を終える。明日はどんなことを話してくれるだろうか。僕は無口だから、彼から話しかけてくれることが多かった。明日は僕から話しかけてみたい。そういえば、カップにメッセージを書くというのも、そろそろやってみてもいいんじゃないか。色々思うことはあっても、なかなか行動に移せないまま、日々は過ぎていく。でもいまはもう、落ち込むことはない。また明日があるのだから。武藤さんと、話すことができるようになったのだから。