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オリジナルBL・百合小置き場

BL「カウンター越しの恋」(1)

「カウンター越しの恋」

 

 僕は大規模チェーン店のコーヒーショップでバイトをしている。バイトを始めてから数ヶ月、毎朝、同じ時間にコーヒーを買いに来るお客さんが現れた。彼はいつもきっちりとしたスーツを身につけ、いつも同じフレーバーのコーヒーをテイクアウトしていく。毎朝毎朝、ピシッとした佇まいで、コーヒーの香りをまといながら、革靴をこつこつといわせて歩く様は、同性からみても憧れるものであった。

 彼と毎朝顔を合わせるようになってから数ヶ月。僕は、朝のシフトを増やしてもらうようになった。そして、毎朝訪れる彼に、コーヒーを手渡すのだ。

「いつもありがとうございます。」

 カウンター越しにかける言葉も毎朝同じ。相手からの返事は会釈のみ。朝、同じ時間、同じコーヒー、同じあいさつを繰り返すうち、なんだか不思議な気持ちになってきた。カウンター越しに会う彼のことなど全く知らない。それは当たり前だ。どのお客さんでも、カウンター越しで得られる関係などない。あくまでカウンターで仕切られた空間でコーヒーを提供する側、される側という関係でしかない。せいぜい「ありがとう」と声をかけられたり、偶然目が合ったりするくらいである。それが当たり前だった。当たり前であるはずだった。

しかし僕は、その先を期待してしまうようになってしまった。毎朝顔を合わせて、あいさつをし、少しでも話ができればいいなと考えるようになってしまった。この気持ちはなんだろう。もし叶うのであれば、彼の声を聞いてみたい。僕のあいさつに応えてもらいたい。目を合わせて、話をしてみたい。そんな気持ちが湧いてきたのだ。

 

 毎朝、今日はあいさつに応えてくれるのではないかと期待してしまう。その願いは、未だに叶ってはいない。でもいつか、彼の声が聞けるのではないだろうかという望みを持ったまま、今日もまた、彼にコーヒーを渡すのだ。